VERITAS No.50 (2013.3.28)

Veritasがお陰様で50号を迎えました。
記念すべき今号のテーマは「図書館のここが好き」。
ぜひあなたも、図書館で「好き」を見つけて下さい。

図書館のここが好き

巻頭言
「Veritas50号の特集とラーニング・コモンズ開設にあたり」

小松 秀雄 図書館長
 

 神戸女学院大学の図書館新館が1984(昭和59)年10月に開館してから今年(2013年)
で約30年になる。この30年間に女子の4年制大学進学率(概算)が13%から45%へと急上昇し、大学を取り巻く環境も学生の気質や雰囲気も全体的にかなり変化したが、図書館の立場から見たとき、どのような変化が目につくのだろうか。

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 日本の高度経済成長期の前半(1960年代中頃)までは、戦前の旧制高校に象徴されるレベルの高い教養主義が新制大学の学生にも受け継がれ、古典と呼ばれる学術書を多くの学生(同年代の人口比では10%前後)が読んでいた。
「古き良き教養主義」も経済成長の進行と進学率の急上昇とともに失われ、一方では専門主義や効率主義が、他方では娯楽主義が社会全体に広がり、その種の専門書やマニュアル本、娯楽向けの本が急増し、同年代の多数派になってきた大学生たちが読む本も多種多様になると同時に「本を読まなく」なってきた。


 大学生と本との関わりが変化するなかで、現在の図書館が直面する最も重要な問題は高度情報化、とりわけICT(Information and Communication Technology)の進展という動向であろう。身近な問題を取り上げると、1995(平成7)年の阪神淡路大震災を契機としてパソコンとインターネットの技術が学生の間にも浸透し、さらに携帯電話も普及するようになり、それらのパーソナルな高度情報機器と学生の生活は切り離せないものとなってきた。新館桜.JPG
そのような高度情報化が進む1993(平成5)年4月にVeritas(図書館ニューズレター)が創刊された。紙媒体中心の広報誌や雑誌から電子媒体中心の時代へと移行する時期にVeritasは両方の特徴を備えた図書館広報誌として刊行されたが、これまでの格調高いテーマと内容を見る限りでは、紙媒体の活字に載せた広報誌の特徴が色濃く出ているように思われる。
今回のVeritasは、電子媒体中心の時代と学生の動向に合わせた試みとして学生自身が書いた記事を多くし、また全体的に短編にすると同時に写真などの映像を増やしている。より多くの学生が受信し、見たり読んだりすることを期待している。


 従来のパソコンよりも高性能な情報技術能力を備えた小型で軽量のタブレットやスマートフォンが学生にも浸透し、紙媒体の本と学生の間の距離はいっそう広がりつつある。
来年度初めから本学図書館新館などに開設されるラーニング・コモンズ(Learning Commons)は、急速に進展・拡大する電子媒体やICTと既成の図書館をつなぐ独自の仕組みである。20世紀末に欧米で生まれたラーニング・コモンズは従来の固定的な大学教育を乗り越える主体的な学習やグループ学習の場であり、開かれた大学教育と学生生活の場である。そのような期待を担う仕組みとして、21世紀になってから日本の大学にも導入されるようになってきた。
本学に開設されるラーニング・コモンズが本学の教育研究の発展を後押しすることを願ってやまない。


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雑誌の時間

高村 峰生 英文学科専任講師
 

 2012年度から神戸女学院の英文学科で教える機会を得、授業や研究のための資料を求めてしばしば図書館を利用させていただいています。女学院には英米文学研究の長い伝統があり、和書洋書を問わず、小さな大学としては驚くほど豊富なコレクションをそろえています。

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私はアメリカの女性作家であるイーディス・ウォートンを研究対象の一つとしていますが、この図書館では彼女の作品、批評や、同時代の歴史的背景を調べるための資料、さらにはフェミニズムに関する著作などが特に充実しており助かっています。
ウォートンについては、去年の夏休みにイエール大学の専門図書館であるバイネキー図書館というところに行き、彼女の自筆原稿や手紙の数々を目にする機会にも恵まれました。私は、これらの収集した資料や公刊されている研究書などをもとにして、ウォートンについてのモノグラフを数年間かけて執筆することを計画しています。
今年度の学期中は仕事に慣れるのが精いっぱいでなかなかこれらの資料を活用して研究するというところまで行きませんでしたが、これを執筆している2月下旬の今、学期中にお借りした資料をようやく少しずつ紐解いています。


 さて、神戸女学院の図書館の中で私の好きな場所はと問われれば、上の専門の話とは全く関係がないのですが、和洋の雑誌や新聞の置かれている一階のソファーのあたりということになりそうです。整然と書棚の並んだ二階以上のフロアとは違い、ここには発行されたばかりの雑誌が表紙を見せた状態で並べられており、くつろいだ空気と時間が流れています。
私が特によく眺めるのはアメリカの文芸誌であるNew Yorkerで、授業の合間などのちょっとした時間に立ち寄って、新しい号を読んでいます。すると10分やそこら活字を追うだけで、今ここから解き放たれて、アメリカの新鮮な息吹を感じることができるのです。
発行されたばかりの雑誌を通して今現在のアメリカ文化を知るというのは、研究で100年前の小説をじっくりと腰を据えて読むのとはまた違った意味で、知的でスリリングな経験です。もちろんインターネットの普及した今、海外の最新情報は瞬時にして手に入ります。しかし、New Yorkerのような一流の編集者の手がけた雑誌は私たちを瞬時にしてまったく別世界に連れて行ってくれるのであり、したがってそれを読むことは、玉石入り混じったネットの世界を浮遊することよりもはるかに自由な体験であると言えるでしょう。
日常を異世界へと開いてくれる図書館の雑誌コーナーは、私にとって非常に貴重な空間です。


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図書館のここがすき!

三浦 陽子 総合文化学科3回生
 

 学校で憩いの場といえば、シェイクスピアガーデンや食堂、デフォレスト館前のベンチなどがありますが、私の好きな場所のひとつに図書館があります。

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 図書館の好きなところ、それはやはり静かに過ごせるところ!心が落ち着ける空間であることです。個別の閲覧室やパソコンの貸し出しもあり、落ち着いて勉強や読書ができるところです。学校の先生方の本も置いてあるので、授業で使う教科書や資料としての本を借りに行ったり、授業の合間に課題をすませに来る人も多いのではないでしょうか。miuraIMG_2141.jpg

 一回生の頃は、図書館は「勉強」というイメージが大きく資料探し以外ではあまり足を運んでいませんでした。...私は図書館には資料としての本を探しに行ったりするだけだったのです。月に1回行くか行かないかという感じでした。

 しかし、最近ではふらっと図書館に寄ることも多くなりました。それはなぜか?図書館にはたくさん本がありますが、「え、こんな本まであるんだ!?」と気づかされてからです。図書館なのでもちろん様々なジャンルの本が置いてあるのですが、普段から図書館に行かなかった私には大変意外だったのです。それからは、少しずつ資料探し以外でも本を探してみたり、いろんなジャンルの本を開いてみたりするようにもなりました。最近は、音楽や宝塚たまに料理の本などがお気に入りです。

 図書館は、現在、生まれ変わるための準備をして閉館中です。私はちらっとその計画を見せてもらったのですが、今までとずいぶん雰囲気も変わり、きれいになってこれまで以上に落ち着ける憩の場になりそうです。今から私も新しい図書館で本を読むことを楽しみにしているところです。

 みなさんもぜひ新しくなった図書館に足を運んでみてください。


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図書館のここが好き

齋藤 千紘 心理・行動科学科2回生
 

 ヴォーリズ建築である本館は、とても雰囲気がよく、静かに本を読んだり、くつろいだりすることが出来ます。また、新館は4階までぎっしりと本が詰まっていて、いろいろな分野の本が置いてあります。

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 例えば、今では入手するのが難しくなった古い本や少し高価な本、すぐ読んでしまいそうで買うのが勿体ないなと思うような本、図鑑などの大型の本、統計資料などでも気軽に手に取ることが出来ます。パソコンの貸し出しもしているので、インターネットも使えるし、ヘッドホンで音楽も聴けます。
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 わたし自身は、授業の間に来て少しリラックスしたり、授業後に参考図書を読んだり、調べものをするのに本やインターネットを利用したりしています。学生寮に住んでいるので、閉館する時間までは少し遅い時間であっても利用できるのでとても便利だなと思っています。

 図書館は勉強をするのにも良い環境だと思いますし、読む本が特に決まっていなくて、ただぼーっと本を眺めている時間も好きです。朝にアルバイトをしていると、寝ている人や本を読みに来ている人、勉強している人など、それぞれが思い思いに図書館を利用していました。

 ちょっと時間があるときには、図書館を利用してみませんか?


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神戸女学院大学図書館架蔵フランス語書目雑談 Ⅺ(最終回)

神戸女学院大学図書館架蔵フランス語書目雑談 Ⅺ(最終回)
 ─クリュブ・ド・ロネトム版『バルザック全集』全28巻(1955年)について─(その5)

柏木 隆雄 大手前大学学長 元神戸女学院大学助教授
 

1.再びコナール版『バルザック全集』

 この連載もすでに11回、神戸女学院大学所蔵のフランス関係の稀覯本の話をするはずが、いつの間にやらバルザック全集の話に引っかかって長引いてしまい、おまけにバルザックの話なのか、古本屋の話なのか分からぬていたらく。そのうえ前回からまる1年休載してしまった。今回をもってきちんと表題どおり神戸女学院図書館架蔵のバルザック全集について述べて最終稿としたい。

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 前回の最後にロマン主義がフランスを席巻した1820年代からほぼ1世紀を経て、1910年から20年代、シャンピオン社からスタンダールやメリメ、ネルヴァルの全集が編纂され、コナール社からヴィ二ーやボードレールの全集なども計画されたことを述べた。

 この出版社はルイ・コナールLouis Conard (1867-1944)が起こしたもので、彼は19世紀末凝った本作りで有名なアルフォンス・ルメールAlphonse Lemerre (1838-1912)書店に勤め、1902年に独立して著名な作家の全集を発行したが、中でもバルザック全集やフロベール全集は有名である。

コナール版フロベール全集書簡編(柏木先生図1).JPG
コナール版フロベール全集書簡編

1912年から出版されて1940年に全40巻の刊行が完結したコナール版『バルザック全集』は、マルセル・ブトロンMarcel Bouteron(1887-1962)とアンリ・ロンニョンHenri Longnon(生没不詳)が中心となって編纂したもので、長い間バルザック研究や翻訳の基本的な底本となっていた。マルセル・ブトロンはシャルトルの書誌学専門学校を出て学士院の図書室に勤め、その長も務めることになったから、以前に記したバルザック研究の恩人的存在であるシャルル・ド・スポールベルク・ド・ロヴァンジュール子爵Charles de Spoelberch de Lovenjoul(1836-1907)の蔵書類がシャンティにある学士院の図書室に寄贈されたものを精細に見ることができたはずである。スポールベルク・ド・ロヴァンジュール文庫には、このベルギーの貴族がその膨大な資産を使い尽くすほど全力を挙げて収集した19世紀ロマン主義関係の書籍類が4万点ほども残されている。とりわけバルザックに関しては、その妻ハンスカ夫人の死後、資料の散逸を防いで、小説家の手蹟の残ったフュルヌ版全集や初版本は言うに及ばず、断簡零墨といえどもこれを残し、はては彼が飲食したレストラン、衣服を注文した仕立て屋の領収書、連載小説の載った群小の新聞雑誌の類まで徹底的に蒐集したものだ。

 ブトロンと共同編集に名を連ねているロンニョンもまた学士院図書室の司書で、二人はロヴァンジュール文庫の膨大な資料を精査して、その成果をコナール版の編集に盛り込んだ。以前にも書いたが、コナール版の装丁や活字が大変美しく、私はコナールで出されたフランス作家たちの全集を集めるのに努力して、その大半を集めることができた。1912年から発刊されたバルザック全集が完結したのは1940年。ほぼ30年近くかかったもので、これに匹敵する日本の出版社の全集は、せいぜい筑摩書房の『マラルメ全集』(昨年ようやく完結。おそらく10年はかかっている)、白水社の『パスカル全集』(これは未だに完結しない。というのも底本にしたパスカル学者メナール教授の編纂した全集がまだ完結していず、これもコナール版ではないが、すでに発刊から30年以上経って、いつ完結になるか、まだ先が見えない。といっても編者のメナール先生は90歳に近い、あるいは越しているかという高齢だ。ますますお元気と聞くからまぁもう2、3年後というところだろうか)といったところだが、ヨーロッパにはこういう息の長い出版が、それも意義深い出版がざらで、文化の底の深さが思いやられる。

 バルザックのコナール版全集の最後の第40巻は1~3と三分冊となっている。これは従来にない多くの未刊の作品断片や資料が満載されていて、大戦を挟んだ不利はあったとはいえ、時間のかかった理由もよくわかる。この全集が全巻揃って行きわたるのは戦後で、評判も高かったがその値段も実に高かった。つい10年前にでも、全巻揃うと4、50万の値が日本の古書カタログでは付いていたことは前回にも述べたとおり。フランスではさほどの値段ではなかったが、それだけ日本ではコナール版の威力は抜群で、それというのも先述の通り邦訳全集や文庫の定本には必ずと言っていいほど、コナール版全集が使われていて、それがまた一種の権威づけになっていた。

 私はこのコナール版全集を安価に買ったが、それの詳細はまた長くなるのでやめよう。ただこの版にはシャルル・ユアールCharles Huard (1874-1965) の挿絵がついていて、モノクロながらバルザックの世界を印象付けている。バルザック全集の挿絵は、例のフュルヌ版『人間喜劇』に当代の挿絵画家たちが腕を競って、いわば登場人物たちのキャラクターを読者の目に焼き付けたが、ユアールの挿絵は、バルザックの時代からはおよそ1世紀近く経ってもいるので、ギュスターヴ・ドレの流れを引く、やや誇張された感じのものだ。

 ところでこのユアールの挿絵は、これも以前記したとおり、バルザック時代と同じ木口版画が用いられている。じつはその原版を1枚私は持っているのだ。

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コナール版『現代史の裏面」挿絵
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コナール版『現代史の裏面』挿絵2
木口版画原版(柏木先生図2).JPG
木口版画原版


それは『現代史の裏面』という作品の挿絵の一場面で、パリ、ルーブルの18世紀の主任学芸員のマリ=カトリーヌ・サユット女史が私の40歳の誕生日のお祝いにプレゼントしてくれたものである。彼女とは30年近く前にパリ行きの飛行機の中で知り合った。たまたま隣の席に座ったのが彼女で、日本にルーブルの作品を持ってきての帰りということで、日本の小説などについて問いかけられたのがきっかけで話が弾んだ。すると私の真後ろの席のフランス人男性が身を乗り出して、しきりに混ぜ返したり、私に質問したりする。あとでわかったことだが、彼はカトリーヌさんのパートナーで、空港で別れる時、自分たちの家に遊びにこないか、と誘いをうけた。数日後彼らの立派なアパートを訪問した時、大歓待を受けたばかりでなく、芸術家仲間や哲学者、小説家など彼らの友人も呼んでくれていて、以来パリに行くたびに必ず訪れることになった。

 フランス人は冷たい、などというが、一旦理解しあうと親戚にも及ばぬ親切と友情を示してくれる。どれだけ私の日本人の友人たちを彼らの豪華なアパートに連れて行って、カトリーヌさんの美味しい手料理と彼女の自慢の選別されたチーズ類、そしてパートナーのレジス・ミッシェルが自慢のワインを楽しんだことか。実は彼女が来日した時に二人で一緒に厳島神社に出かけたことがあるのだが、またまた脱線しそうなので、再びバルザック全集の話に戻ろう。


2.クリュブ・ド・ロネトム版『バルザック全集』全28巻(1955年)

 コナール版全集を完成させたブトロンは、1949年から1950年にかけてガリマール社の看板叢書『プレーヤッド叢書』で『人間喜劇』全11巻を完成させた。コンパクトで独特のインディアン・ペーパーに細かい活字で印刷されたこの叢書は、厳密な校訂と詳しい註でフランス文学のみならず世界の文学にも範囲がおよぶ現在もっとも信頼されるテクストとして有名だが、しかしそういう抜群の信頼度を得るようになるのは、1970年代あたりからで、最初はともかく一作家の全貌をコンパクトな装丁の一冊本で読めることが売りのものだった。したがってブトロンの編纂した『プレーヤッド叢書』版『人間喜劇』は、現在見るピエール=ジョルジュ・カステックス教授(1915-1995)を中心とするバルザック研究者たちが総力を挙げて再編した第二次バルザック『人間喜劇』全12巻、別巻3と比べて収録したテクストの量も、校異も、注の充実についても著しく見劣りがする。

 その意味で神戸女学院図書館架蔵のモーリス・バルデッシュ編になるクリュブ・ド・ロネトム版『バルザック全集』全28巻は、ブトロンの編纂になるプレーヤッド叢書版や同じブトロンが編纂したコナール版バルザック全集とは数段進歩したバルザックのテクストを提供するものとなった。

 全集は全28巻で、La Sciété des Etudes Balzaciennes(バルザック研究協会)が編纂となっているが、実はモーリス・バルデッシュがほとんど個人で取り仕切ったらしい。

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ロネトム版初版表紙


もちろん先に大きな功績をあげたブトロンの業績もそのアドヴァイスも参考にしただろうし、作業の助手的な役割を果たした人たちはいるだろうが、のちのプレーヤッド版『人間喜劇』のように、はっきりと編集の担当者が上がっているわけではなく、収められた作品の解題や注、ドキュメントの選択などは無署名である。それでバルザック研究協会」の実態がよくわからないのだが、その理由の一つには編者のバルデッシュが関わっているように思われる。

 モーリス・バルデッシュMaurice Bardèche(1907-1998)は地方の小官吏の家に生まれて秀才の誉れたかく、奨学金を得てパリの高校に進学、1928年にエリート校である高等師範学校に入学。同期に哲学者のシモーヌ・ヴェイユ、ジョルジュ・ポンピドゥーがいる。ソルボンヌ大学で教鞭をとり、博士論文La formation de l'art du roman chez Balzac jusqu'à la publication du Père Goriot (1820-1835).「『ゴリオ爺さん』発刊にいたるまでのバルザックにおける小説技法の形成(1820-1835)」を1940年に書き、それがBalzac romancier.『小説家バルザック』として刊行されて名著を謳われることになる。以後リール大学に移るが、折から台頭してきたファシズムに共鳴、妹の夫となるロベール・ブラジヤックRobert Brasillach(1909-1945)とともに親独、親スペイン・ファシストの論陣を張った。ブラジヤックが大戦後、人道的な見地からのモーリヤックなどの嘆願にも関わらず、ドゴールによって処刑されたのち、彼はフランス極右の論客として、自らSept Couleursなる出版社を興して主張を続けた。

 おそらくクリュブ・ド・ロネトムのバルザック全集予約募集に際しては、最大3,000部を獲得するのに、表立っての編者の名前を冠することを憚ったのではなかっただろうか。じっさい全集の編纂の姿勢に、そうした極右の姿勢があからさまに出ているわけではない。全集最後の第28巻の最末尾に初めてバルデッシュが主たる編者であることが明らかにされ、協力者として、フィリップ・ベルトー、ベルナール・ギヨン、ピエール・ロブリエ、フェルナン・ロット、レイモン・マッサン、モーリスル・ルガールといった1950~60年代のバルザック学のトップの名が記されている。しかしそれは注記の細かい活字によって慎ましく示されるにすぎない。

 全集第1巻の発刊は1955年11月。この全集の特色は、バルザック当時の版画やミニアチュール、新聞の類を挿絵として多数組み込んでいることと、バルザックが印刷屋として失敗の後始めた活字鋳造所の活字を用いていること、数多くのドキュメントや、雑誌その他に署名、匿名でバルザックが執筆した記事を克明に発掘して、網羅的な全集を企図したことにある。これは従来の全集にはかつて見られない、画期的なことだった。


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ロネトム版初版第1巻と第28巻
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ロネトム版初版挿絵


 その全集の編集方針について、おそらくバルデッシュのペンになると思われる叙を引こう。

 われわれはバルザックの作品に関して出来る限り完璧にして、資料の整ったエディションを提供しようと試みた。優れた専門家たちによって実現されたこの全集は、すべてのバルザックの読者に彼らの愛する作家を熟知するのに必要なもっとも新しい知識を提供することになるだろう。そしてそれと同時に、この全集に図像資料を豊富に添えて、各作品について19世紀にかかわるイラスト資料を提供したいと考えた。このイラスト資料については、その泰斗たるジャン・アデマールJean Adhémar(1908-1987)の撰になり、第1巻の最後に解説を載せている。

 最終巻の発刊は1962年5月。ほぼ7年の歳月をかけての刊行となった。これでバルザック研究は大いに進むことになるが、一般にはなおコナール版の全集やプレーヤッド旧版の『人間喜劇』が流布の点からいって取り上げられることが多く、その意味ではやはり極右のバルデッシュに対する一種の疎隔が会ったのかもしれない。

 このロネトム版に先だって、1950年にクラブ・フランセ・デュ・リーブルでベガンとデュクルノーが編纂して16巻からなる『バルザック著作集』が刊行されている。

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クラブ・フランセ・デュ・リーブル版1
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クラブ・フランセ・デュ・リーブル版2


これはバルザックの『人間喜劇』を、彼が考えたような配置ではなく、小説の事件が起こった順番に各作品を並べるという画期的な意図で編纂されたものだが、これも研究者向きというより、一般の読者を意図しており、挿絵はフュルヌ版のものをそのまま使用し、紙はインディアン・ペーパーを使用してなるべく頁のかさを増さず、さらに本棚に置いて、多少飾りになるように、各巻に作家の氏名のアルファベットを配する工夫などをするとともに、最終巻に登場人物たちの短い伝記などを添えて、読者の便を図っているところに特徴がある。(『人間喜劇』の登場人物についての解説はすでに戦前から大著が数冊出ているが、やはりプレーヤッド新版『人間喜劇』の第12巻についている登場人物索引が質、量ともに信頼が置けて、便利であり、その人物がどの作品の何頁で誰それとあって、どういうことをしたかが示されるなど、克明な人物事典になっている)


3.第二次クリュブ・ド・ロネトム版『バルザック全集』全24巻(1968年)

 全28巻のバルデッシュ編纂の全集は、ザクロ色の全革装丁で、背に飾り文字でHBと金箔で押してある豪華なものだ。これに続いて第2版が1968年に刊行された。初版が3,000部の限定であったが、今度は6,000部が刷られたとある。全24巻で内容は変わっていないけれど、前版でテクストの中に込みこまれて印刷されていた挿絵ドキュメントが、あらたな選択が加えられた上に、テクストの中に印刷されるのではなく、別葉として該当頁に挟み込まれる形に整えられた。そしてイラスト資料も、より鮮明に、より資料らしいものが選べれているように思われる。

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ロネトム版全集第2版
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第2版全集表紙
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ロネトム版第2版2
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ロネトム版全集3


 装丁は濃いブルーの総仔牛なめし革装で、前版は天金が施されていなかったのと比べて、天金で、より豪華な感じを増している。最終巻が発行されたのは1971年6月となっていて、刊行にほぼ3年の歳月をかけたことになる。初版の方が、印刷面など、活字も小さく行も狭く印刷されているように見えるが、巻数は2版の方が4巻少なく、活字ポイント、行数もゆとりがあるように見えるのは、おそらくイラストを本文に組み込まず、精選して頁の間に挟んだことによるのだろうか。
 この第2版は私が本格的にバルザックを研究するようになって、よく利用した。じつはこのロネトム版は、1970年当時かなり高価なもので、貧乏書生の私に手の出るはずはなかったのだが、1973年に結婚することになった際、いわゆる貧弱な結納を交わした際に、折りしもパリへの往復を頻繁にしていた家内に厚かましくも私がねだって、この全集を「返し」としてもらったものだ。したがって家内との縁が切れれば、この全集とも縁が切れるわけで、まさかそのために細々と赤い糸を繋いでいるわけではなかろうが、本音を言えば多少そういう気配もないではない。
 御蔭でパリに家内と出かけた際に、版元に出かけてそこの出版する全集の類をかなり安く買い求めることになった。『サルトル・ボヴァワール集』、『アレクサンドル・デュマ・ペール全集』、『サン=テグジュペリ全集』、『フロベール全集』等々である。一番最初に8区の豪華なアパートにある版元に出かけた際、広い1階のサロンに通されて、その中央に、映画で良く見る螺旋形の階段があり、2階からその螺旋の、階段をあたかもパーティの女王のように真っ赤なドレスを翻して金髪、長身の美女が降り立ってきたのにはたまげた。おそらくは裕福な彼女の道楽のようにロネトム版全集をだしているのではないか。そんな気がするほど、優雅な人が顧客を相手にするように慇懃に迎えてくれた。以来そこを直接訪ねることもなく、手紙での全集の購入になったが、さてあのグレタ・ガルボのような美人社長は、今どうなっているだろうか。バルザック全集の革装の表紙をなでるたびに、その日のありさまをまるで夢幻劇を思い出すように噛みしめている。  (完)
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AVライブラリーからのお知らせ

AVライブラリー活用術!

永久保 晴子 視聴覚センター担当
 

 4月からの図書館新館のリニューアル、とても楽しみですね。真新しい設備に魂を吹き込むべく、皆さんの積極的な利用を期待しています。

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 AVライブラリーも非常によく活用して下さっている方がいます。
休暇に入り、お会いしなくなると「どうされているのかな?」と、少し寂しく感じる程です。
 その中で、語学ソフトを頻繁に貸し出している方にお聞きしたところ、貸出期間中に、その本をやりとげられるよう、自分に課して取り組んでいるという方や、一年生の間に点数が大幅にアップした方は、雑誌『CNN ENGLISH EXPRESS』をよく閲覧されていた上に、一般に行われているTOEICテストを自主的に何度も受けて、テストの形式に慣れるようにしたとのことでした。さすがですね!
 
 上記の学生さんが利用されていた、『CNN ENGLISH EXPRESS』のように、AVライブラリーでは、テキストだけでなく、語学に関する雑誌も購読しています。ここでは、その中から興味深かった記事をご紹介しましょう。

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 『AERA English』の最新刊(2012年11月号)によりますと、トーイックファイターと呼ばれるTOEICオタクの勉強会に参加されている方々のオフ会では、台風が上陸しつつあり、暴風雨吹き荒れる中でも、「inclement weatherに乾杯!」の音頭で始まり、「TOEICでは、inclement weatherで airplaneがdelayしてcomplimentary refreshmentsがserveされるんです。」というような例文が語られているそうで、なかなか奥深い世界です。

 ところで、どうしてTOEICテストのスコア取得が就職や会社での昇進の為の要件として採用されているのでしょうか?それは、単に英語力だけではなく、自己管理能力、タイムマネジメント力、実際に物事を実行する力、自分を客観的に見て何かを修正していくスキルなども、考慮されるからだそうです。
 ということは、TOEICの得点をアップしながら、さまざまな力をつける練習にもなるということで、一挙両得ですよね。こちらは、e-learningでおなじみのアルクの情報誌、『monthly ALCOM WORLD 』2013年3月号からの情報です。


 このように、面白そうな記事を読むだけでも、語学学習へのヒントはもちろん、異文化に触れたり、通訳者の現場でのエピソードなど、多彩で、為になる話題が満載です。少しの空き時間でも、AVライブラリーに来て、ページを開いてみて下さい。きっと、何かしら得るものがあると思います。


 新年度は、新しいテキストを多数購入予定です。また、海外ドラマのDVD「フレンズ」も全巻入りました。楽しみながら学べる語学教材として推奨されている作品です。是非ご覧下さい。


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図書館からのお知らせ

図書館の新しいスペース

溝口 良子 図書館課長
 

図書館新館に入って頂くと、今までと異なったまったく新しいスペースが開けています。
ラーニングコモンズ、アクティブラーニング、コモンスペース等いろいろな名称で呼ばれますが、本学では今のところラーニングコモンズと呼ぶ事になりました。

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これまでの長い伝統的な図書館での過ごし方、つまり静粛に一人で読書する、調べ物をする、飲食はしてはいけない等という決まりをすっかり取り払った空間となっています。クラスメイト、友人など複数の人数で意見を交わし合う、コンピュータを使って具体的な画面をみながら一つのものを作り上げる、そんな活動に使って頂きたくて作ったスペースです。勿論、先生を交えて質問する、議論することも歓迎します。

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机や椅子は自由に動かせますし、コンピュータやプロジェクターは貸し出します。2階~4階までの閲覧室にある本を持って来てゆっくり読む事も出来ます。そして、ふたがキチンと閉まる飲み物なら持ち込んで飲む事も可能です。それぞれ異なったグループがお互いの声に煩わされることのないように程度をわきまえて、大いにこのスペースを利用して下さい。


この自由なスペースは新館1階だけでなく、地下1階も同じように使って頂けます。これらのスペースは無線LANの環境を整えました。また、図書館本館のあの美しい閲覧室ではiPadを貸出用に20台用意しています。新学期が始まったら是非1度はこの素敵な図書館を経験して下さい。


もう一つ、最後に大切な事を!この空間にニックネームを付けて下さい。5月連休明けまで募集しています。


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目次 図書館のここが好き 巻頭言
「Veritas50号の特集とラーニング・コモンズ開設にあたり」 : 小松 秀雄
雑誌の時間 : 高村 峰生 図書館のここがすき! : 三浦 陽子 図書館のここが好き : 齋藤 千紘 神戸女学院大学図書館架蔵フランス語書目雑談 Ⅺ(最終回) 神戸女学院大学図書館架蔵フランス語書目雑談 Ⅺ(最終回)
 ─クリュブ・ド・ロネトム版『バルザック全集』全28巻(1955年)について─(その5) : 柏木 隆雄
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